ZbrushではオリジナルのVDMブラシやIMブラシを作って運用するのが効率的かも

(約 6,800文字の記事です。)

Zbrushはブラシで盛れるのが特徴だが、1つだけ非効率なことがある。それは、ほぼ同じ形を作る場合にも盛る作業をしてしまうことだ。これは時間の無駄だ。Zbrushでは「如何にブラッシングを減らして」完成型を作るかがとても重要だ。今回はその導入の記事。

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Zbrushのブラシは5系統

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この図の全ての展開図はこちら。

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ブラシで盛らない造形方法を考える

Zbrushには、IMブラシ、VDMブラシという「盛り」とはちょっと違うブラシが用意されている。だが、書籍やweb上の情報はとにかく「盛ること」のノウハウを公開しているものばかりで、他のブラシの使い方の情報はあまりない。

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IMブラシ(Insert Mesh Brush)

IMブラシは、1つのメッシュをドキュメント上に挿入するブラシ。手間こそ違えどZTLファイルをインポートして1つのサブツールに結合したようなものだ。
Brush > IMM Partsブラシで試すといい。新たなメッシュが追加される。

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(画像ではメッシュが別々であることを説明するために最後にAutoGroupsで色分けしました。)

そして、IMカーブブラシもこの仲間であり、始点メッシュ、中間のリピートメッシュ、終点メッシュの3つのポリグループからなる。そしてそれらはカーブに沿って並ぶ。応用的なIMブラシとして誕生したと思う。

IMMブラシ(Insert Multi-Mesh Brush)

これは複数のIMブラシを1まとめにしたもの。パッケージ化されたIMブラシ群の総称。IMブラシは複数になることが多いのでほとんどの場合はIMMブラシとして1つのブラシにパッケージ化されている。取り扱いやすさだけの問題。

VDMブラシ(Vector Displacement Meshes Brush)

VDMブラシは確かZbrush2018から搭載された機能だと思っている。比較的新しい機能ということになるかな。
メッシュの表面上に、予め作っておいたメッシュを埋め込むというか融合させるブラシ。コツとしては元のメッシュをかなりハイポリ状態にしておかないと、割とガタガタが目立つという点。VDMを使いこなすためにはサブディビジョンレベルの管理が(一時的であれ)必要になる。

Brush > Chisel3Dブラシから顔パーツを付けてみた。Ear01でテスト。

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これ、ブラシをドラッグしただけ。ノースカルプト。実はこれはとても重要。メッシュを重ねてダイナメッシュでもないし、メッシュを重ねてブーリアン結合とも違う。しいていえば「転写」に近い。ブラシ形状をメッシュの表面にProjectALLしたようなものだ。

アルファ画像との違い

アルファを利用するとブラシの変化に自動でマスクがかかる、と思えばいい。型押しで形を作るみたいなものだ。型押しなので、キノコの「傘」を作れない。タケノコなら作れるし、岩肌も作れる。だが石の上に石を重ねてバランスさせる「串団子状態」はアルファからでは作れない。アルファはバンプマップ、ディスプレイスメントマップと同じ考えで形を作るので、形の制限がある。一方でVDMブラシは3次元の情報を持っているブラシなので、キノコも串団子もメッシュ上に表現できる。

さて、ここからが本題。

3DCGは使い回せる点がデジタル絵との大きな違い

何を当たり前のことを、といわれそうだが、ここを軽視していないか?
というのも、過去に一度でも似た形を作ったことがあるのであれば2度目以降はそれを変形させて作ればかなりの高速化・効率化が期待できる。だが、実際にそういう仕組みを作って運用していますか?ということがいいたいのだ。

人生で何度「耳」を造形するつもり?

例えば、フィギュアを累積で200体作ったことがあるとしよう。その作業内容で、耳を何個ゼロから作ったか?ということだ。クリーチャーでない限り、人体の耳の構造は決まっている。耳たぶや全体の形はムーブ系ブラシでちょっといじればいい程度だ。エルフにしても同様。で、最初の質問に戻る。左右対称造形だとして、耳200個中何個をゼロから作らなければならなかったのか?という質問でもいい。

どう考えても最初に2,3個作れば、後は使い回し、あるいはそれをベースとした変形で済むよね?角度、形の大小の調整なんて一瞬だ。だが耳をゼロから作るとなると結構な時間がかかる。だが人体構造は最初から答えが出ている。

これは耳に限らず、体中のあらゆる部位について言える。
人体構造はとっくに完成しているものなのだ。ゼロから作るべき所などない、と思っている。全てはベースから作って変形加工で完成できるのだ。要するに、ベース部分の用意までどれくらい効率化できるかが、仕上がりまでの時間数に直結する。

自分用のベースとなるメッシュを用意して磨き上げることが重要

で、最初の形は、誰かが作った物だったり、プリセットだったり、買ったものだったり、自分でゼロから作った物でもいい。ないものは作るしかない。だが、一度作ったメッシュを再利用可能な形で保守・運用するつもりでメッシュを用意することを続けていれば、経験時間数が増えるにつれて「サッと作れるツール群」が増えることになるよね?
顔のパーツだけでなく、体中のパーツ。しかもポーズごとに分けて管理しておけば、そのポーズごとの筋肉の変化が反映されたモデルなはずなので、そこからちょっと変形させたり筋肉の変動を変えて整えるだけで完成するはずだよね?

人体構造もプリセット化できるのでは?

腕の角度だって10度刻みで作っておけばたいてい応用が利くよね?別に作りだめしなくても、以前作った腕の角度に近いものを曲げて、加工して、保存しておけば、自分のライブラリがどんどん増えていく。次にその角度どんぴしゃなポーズがあったら微調整不要だし、更に微調整だったとしても、調整か所の変化量はかなり少ないからすぐにできるはずだ。

もちろん、関節の曲げによってあらゆる筋肉や脂肪の凹凸を表現するためにはきちんと解剖学的な知識と観察が必要だ。だが、そうやって作った形は、次に(ほぼ)同じようなポーズの部位があった時に使い回さない理由がないよね?だって人体構造は決まっているのだから、同じ関節の角度ならば同じ筋肉・脂肪の動きになるのだから。それをキャラの肉質にあわせて微調整するだけでいいよね?ってこと。なにも「観察も考えもなしで過去の資源を使い回すだけでいい」と言っているわけではないよ。念のため。一生懸命に作った部分だからこそ、次回にもそのエネルギーを品質に変えて・造形に変えてきちんと生かすべしって事ね、時間をかけずに。これすなわち効率化でしょ?

服のシワもプリセット化できるのでは?

服のシワ。難しい造形だ。だが、シワのでき方は物理的な法則に従っている。シワのランダム性を考慮しても、シワの湾曲性、凹凸の深さ、方向など、パターン化できる。それらのパターンをVDMブラシで作って自分のツールにして1つずつ増やしていけば、ある一定の量に達した後は、シワを彫るのではなくてスタンプするようにさらっと作れてしまうのではないか?その後の微調整のためにブラシを活用する。

シワの部位も決まっている。腕にしても、体にしても、体のひねりにしても、各部分のシワにはパターンがある。新体操選手のようなポーズばかりを作るなら難しいかもしれないが、腕の角度に応じたシワのでき方、肩の角度に応じた、ウェストのひねりに応じた、シワのでき方はパターン化できる。そして沢山の「過去に使ってきた」シワパターンのVDMブラシは自分自身で使いこなせることは間違いない。なぜならば過去に使ってきたことがあるからだ。始めて試すなら時間がかかるが、既存のものならば安定して作れる。もちろん大きさ、湾曲、深さは微調整が必要だが、それはシワ全てを彫ることに比べたら大したことがない。ムーブ系ブラシでちょっとつつく程度で十分だからだ。

発想のきっかけ

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オリジナルキャラのアッシュさん。軍服なのでポケットが多い。けど、パンパンにものが詰まっているシーンを除いては、服の表面に沿う形となっている。これを毎回彫るのか?面倒だな、同じ形なのに。

IMブラシみたいに別パーツにすると体の表面カーブに沿ってくれないのでいちいちムーブ系ブラシで整える必要がある。ポケットだけでも上着4つ、ズボンに4つの合計8か所。各5分でも40分も持って行かれる。ポケット作るだけなのに。

Zbrushだからハイポリ上等なのは一つの強みなはずだ。PCが多少重くなることはいいとして、ハイポリでもいいから、もっと簡単に「彫った後の形」を再現できる方法はないかな?と思って探していたら、VDMブラシのことを思い出した。この紹介はまーてぃ本に書かれているのだがそれを思い出したのだ。

で、最初に紹介したように、プリセットで用意されているChisel3Dブラシを試した。これ、これだよ。つまり、ポケットの形をしたVDMブラシを自作すれば、以後はスタンプを押すようにペタペタと服の表面にポケットを作れる。8か所も2分で作れるだろう。これだ!

Zbrush造形での効率化の最大の鍵は自作VDMブラシと自作IMブラシにあるのかも

VDMブラシが有効なのは分かった。ほぼ間違いない。ではIMブラシはどうか。
IMブラシは実はあえてブラシにしなくても、ZTLとしてインポートしてギズモを使えば同じ事ができる。ブラシにするとそれをドラッグ一発で配置出来ることがメリットだが、頻度が低ければZTLでも変わらない。

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これを作ったときに思ったこと。襟が面倒だ。
だが、襟も、基本形は一緒だ。襟の形状や角度、大きさが違う程度であって、首の周りにU字に配置されて正面から見てハの字の板状ポリゴンがあるってのは共通だ。よほどの異形でない限りテンプレ化ができる。これをメッシュ上に植えるならばVDMブラシとして作る必要があるが、色分け等の理由で首に突き刺さる形状でいいのならばZTLあるいは複数パターンを作ってIMMブラシ化すれば、以後はドラック一発でベースができる。毎回Zmodelerでシコシコ形を作る必要はない。

この運用ができるようになると有料の外部ブラシ類の活躍頻度が高まる

そうして自作のブラシを活用するようになると、自作では手間がかかりすぎるような造形も、有料ブラシを買うことで造形できるようになる。だって、ブラシの形そのものは誰が作ろうとも関係がない。最終的にそれを作品に盛り込んで使えば自分の作品だからだ。そのブラシが実は20時間かけて作られたものだとしても、スタンプするのは数秒だ。20時間分のクオリティーを数秒で表現できる。これは最高の効率化だ。これは3DCGならではだ。絵ではこうはいかない。

3DCGは使い回せるという点を最大限に利用できているか?

ならば、今後はあらゆる造形を「再利用できる形で盛り込めないか」を考えた上で造形作業に入るのが最も効率的、ということになる。そのベースを、腕が高まったときにさらにブラッシュアップして磨いておけば、それを利用した造形もまたブラッシュアップされている。毎回彫る時間を、彫り上がった造形のブラッシュアップに投資しているわけだから当然だ。どんどん加速する。

例えば、これから試してみる部分の話だが、ポケットのVDMブラシ、最初は単に板部分が盛り上がっているだけかもしれない。だが、こうやってVDMブラシを使うことをどんどん覚えていき、買った縫い目ブラシを使ってある日そのポケットブラシに縫い目を与えたとしよう。以後のポケットには綺麗な縫い目がある。でも、VDMブラシでポケットを作る作業自体は今までと何にも変わらない。スタンプするだけだ。だがそれ以降の造形物には細かな縫い目がきちんと施されている。

こうやって、ズボン、ベルト、ポケット、すそ、袖、などなどあらゆるところがどんどんブラッシュアップされていけば、実は最初と全く変わらない手間なのにクオリティの高い(作り込みの多い)モデルが出来上がることになる。時間数と経験数が増えるほど有利になる。もちろんその引き出しもどんどん増えているわけだからなおさらいい。人に勧められる質になったらブラシ類の販売もしてみることも可能だ。夢は膨らむ。

この考え方で行くと、実は、髪の毛すらもIMMブラシ化することでテンプレ化できる。頭髪は約8つの領域に分けられるが、各領域ごとにショート、セミロング、ロングというようにIMMブラシ化、ZTL化してストックしておけば、あとはそれらの組み合わせでベースはできることになる。ない場合にはそこから作ることになるが、新たに作ったその髪パーツもストックすれば次回に生かせる。作るほどに自分の「すぐに使える道具」が増えるわけだから早く高品質なモデルが作れるようになるのは当たり前だ。

無意味な造形の試行錯誤から「完成型をブラシ化して運用する」スタイルへの移行

もちろん、目の前の立体にブラシで彫り込んでいけばいずれ完成するだろう。だが、その彫り込みを、一度VDMブラシで作ってから、VDMブラシをスタンプする事で立体に反映させる。気に入らなければまずはVDMブラシを修正してそれを繰り返す。で、8割方いいと思ったら、VDMは完成とし、VDMブラシを適用させた形に2割の調整をブラシで行う。そうすれば、次に同じような彫り込みが必要になったときにはVDMブラシベースで作ればいいので、いきなり8割が完成する。

VDMブラシが一通りそろうまでは時間がかかるが、そろってしまうと以後の作業は早くなる。だって2割を盛ればいいだけなので、最初から8割の完成型がそこにあるわけで。
使い回せる3DCGの特性をフルに生かした造形だと思っている。

だがこれはまだ仮説に過ぎない。自分で実践して試してみるしかない。

今後はVDMブラシの作り方に注力する予定

なので、今後は、VDMブラシの作り方、IMMブラシの作り方、ZTL保存の3つを常に念頭に置いて造形していく予定。
ノウハウが溜まったら記事にします。

あとがき

これが実現すれば、ようやくデジタル絵を描くよりも早くて効率的に挿絵を作れる環境が整うと思っている。ワンシーンにトータルで2時間までしかかけたくない。挿絵と小説とを毎日交互に行うためにも、1日で3DCGによる挿絵作りは完結させないと、モデリングスキルアップの時間が確保できない。挿絵作り、小説作り、モデリングスキルアップの3つをぐるぐる回すためには、挿絵作りで時間を使いすぎるわけには行かないのね。だから微細な表現よりもざっと作ってざっと絵にすることを最優先にしているのだが、VDMブラシの作戦が当たれば、細部を足すのも簡単だし、このルーティンに影響を与えることなくクオリティーアップが可能だ。そうすればよいループが出来上がると思っている。

私にとって、ようやくZbrushの扉が開いた。

今回の創作活動は約45分(累積 約829時間)
(241回目のブログ更新)

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